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社内SEの仕事

社内SEの市場価値を高める「IT統制」|仕事内容とその専門性

「社内SEの求人で見かける『IT統制』って、具体的に何をする仕事?」
「J-SOX対応とか監査対応とか、難しそうで自分にできるか不安…」
「SIerの経験はIT統制業務でどう活かせるんだろう?」
質問者
質問者

SIerやSESから社内SEを目指すとき、求人票でよく目にする「IT統制」や「J-SOX対応」といったキーワード。なんだか堅苦しくて、特別なスキルが必要そうに感じますよね。

結論から言うと、IT統制は企業の信頼を守るための重要な業務であり、SIer等で培ったシステム開発・運用の知見を直接活かせる、社内SEの専門性が光る領域です。

「監査」や「ルール」といった言葉のイメージで敬遠してしまうのは、非常にもったいないです。この記事では、IT統制とは何かという基本から、社内SEが担当するリアルな業務内容、そしてこの仕事ならではのやりがいまで、私の経験を交えながら徹底的に解説します。

なお、この記事は「IT統制」という専門領域に特化した内容です。IT統制だけでなく、IT企画や予算管理といった他の専門管理業務の全体像をまず把握したい方は、こちらの包括記事がおすすめです。

この記事を書いた人(マサトシ)

マサトシ

マサトシ(詳細プロフィールはこちら

SIerでの開発・保守経験を経て、金融、外資系など計4社の事業会社で社内SEとして約20年にわたりキャリアを築いてきました。インフラ、アプリ、ヘルプデスクから部門長まで幅広く経験し、現在は採用業務にも携わっています。社内SEの本音や転職・キャリアアップのポイントなど、実務者だからこそわかる現場情報をお届けします。

この記事を読めば、こんなことが分かります!

  • IT統制の目的と3つの分類(全社・全般・業務処理)の明確な違い
  • IT統制における社内SEの超具体的な業務内容(監査対応のリアルも解説)
  • SIerやSESの経験がIT統制業務でどう活かせるのか
  • 守りのIT業務ならではのやりがいと、キャリアアップに繋がる理由

IT統制とは?企業の信頼性を支える「守りの要」


IT統制とは、一言でいえば「企業のIT利用に関するリスクを管理し、コントロールする仕組み」のことです。

なぜこれが必要かというと、現代の企業活動は会計システムや販売システムなど、あらゆる場面でITに依存しているからです。もし、これらのシステムが正しく使われていなかったり、データが改ざんされたりすると、会社の財務報告が信頼を失い、経営の根幹が揺らいでしまいます。

特に上場企業では、金融商品取引法(通称:J-SOX法1)によって、信頼性のある財務報告を行うための社内体制(内部統制)を整備することが義務付けられています。そして、その内部統制の重要な要素として「ITへの対応」、つまりIT統制の構築が明確に求められているのです。

マサトシ
マサトシ
私もSIerから社内SEに転職した当初は「統制」という言葉に身構えていました。でも実際は、システムの変更履歴をきちんと残したり、誰がどのデータにアクセスできるか管理したりと、SIer時代の開発ルールや運用手順に通じる部分が多いんですよ。

IT統制は、単にルールで縛るための活動ではありません。「業務の標準化」「セキュリティリスクの低減」「内部不正の防止」といった目的を通じて、企業の信頼性と経営基盤を守る、非常に重要な役割を担っているのです。

IT統制の3つの分類|家づくりに例えて理解しよう


IT統制は、いきなり細かいルールから考えるのではなく、大きな方針から具体的な仕組みへと落とし込んでいきます。その構造は、目的と対象範囲によって3つの階層に分かれており、家づくりに例えると非常に分かりやすくなります。

まず、3つの統制の役割を解説します。

  • IT全社的統制(家のコンセプト決定):
    これは「会社としてITとどう向き合うか」という、最も大きな方針を決める活動です。家づくりで言えば、「耐震性を最優先した、家族が安心して暮らせる家」といったコンセプトを決める段階にあたります。経営層が「我が社はセキュリティを最重要視する!」と旗を振るのがここです。
  • IT全般統制(ITGC)(土地や基礎工事):
    これは、個別のシステム(部屋の設備)が正しく動くための「IT環境」を整備する活動です。家づくりにおける、頑丈な土地を選び、強固な基礎や柱を建てる工事に相当します。どんなに素晴らしいキッチン(業務システム)も、傾いた床や脆い壁の上では安心して使えませんよね。社内SEが主役となってこの土台を築きます。
  • IT業務処理統制(ITAC)(部屋ごとの設備):
    これは、販売システムや会計システムなど、個別の業務で使われるシステム内のルールです。家で言えば、「キッチンのコンロは自動で火が消える」「お風呂はボタン一つで自動お湯はりができる」といった、各部屋の設備そのもの。一つひとつの処理が正しく行われることを保証します。
なるほど!家全体のコンセプト(全社統制)があって、その上に頑丈な土台(全般統制)を築き、ようやく個別の部屋の設備(業務処理統制)が安心して使える、という関係性なんですね。
質問者
質問者

この3つの関係性をまとめたのが以下の比較表です。

種類
(家づくりの例)
目的 主担当(例) 社内SEの関与度
IT全社的統制
(コンセプト)
全社的なIT戦略や情報セキュリティに関する大方針の決定 経営層、情報システム部門の管理職 △(方針策定に関与)
IT全般統制(ITGC)2
(基礎・土台)
複数のシステムを横断して支える、信頼性の高いIT環境の保証 情報システム部門(社内SE) ◎(主担当)
IT業務処理統制(ITAC)3
(各部屋の設備)
個別の業務システム内で行われるデータ処理の正確性の保証 業務部門、情報システム部門 〇(業務部門と連携)

この表の通り、社内SEが実務で最も深く関わるのが「IT全般統制(ITGC)」です。次章では、このITGCを中心に、社内SEが具体的にどんな仕事をしているのかを掘り下げていきます。

IT統制担当のリアル|社内SEの具体的な業務内容を深掘り


SIerやSESから転職を目指す方が最も知りたいであろう、具体的な業務内容を解説します。

IT統制の仕事は、大きく分けて「①ルールを作り、それを運用すること」と「②ルールがきちんと守られているか証明すること(監査対応)」の2つに集約されます。

IT全般統制(ITGC)に関する業務

ITGCは、会社のITシステム全体を正しく管理するための仕組みづくりと運用です。社内SEがまさに主役となる領域で、業務は多岐にわたります。

  • システムの開発・保守管理: 新規システムの導入や既存システムの変更が、適切な手順(計画、承認、テスト、本番移行)を経て行われるようにする管理
  • システムの運用管理: 日々のバッチ処理やデータバックアップ、障害発生時の復旧手順など、システムの安定稼働のための管理
  • アクセス管理: 入社・退職・異動に伴うアカウントの発行・停止や、年に1〜2回の定期的な権限の棚卸し(レビュー)といった権限の管理
  • 外部委託先の管理: システム開発や運用を外部ベンダーに委託している場合に、委託先の管理水準が適切かを評価・監督

「システムの開発・保守管理」での承認プロセスって、具体的にどんなふうにルール化するんですか?
質問者
質問者

マサトシ
マサトシ
良い質問ですね。例えば、システム変更のリスクに応じて「誰が」「どのレベルの変更を」承認するかを一覧(マトリクス)で整理しておくんです。「軽微な設定変更ならチームリーダー決裁でOK」「でも、本番環境の構成に関わる重要な変更は情報システム部門長まで承認を得る」といった基準ですね。そして、誰が承認したかという証跡(エビデンス)をしっかり残すことが、監査対応では非常に重要になります。

IT業務処理統制(ITAC)に関する業務

ITACは、販売管理システムや会計システムなど、個別の業務アプリケーションに関する統制です。こちらは業務部門が主体となりますが、社内SEはITの専門家として深く関わります。

  • 入力データの正確性確保: ユーザーの入力ミスを防ぐためのシステム的な制御(例:必須項目チェック、桁数チェック)の実装
  • データ処理の正当性確保: 自動集計や自動仕訳など、システム内部の処理ロジックの正確性の担保
  • 例外処理の管理: データエラーが発生した際の検知・報告・修正プロセスの整備

監査法人対応:社内SEの腕の見せ所

年に一度のビッグイベントが、監査法人による「内部統制監査」への対応です。これは、私たちが整備・運用してきたIT統制が、客観的に見ても有効に機能していることを証明する場です。

監査人からは、以下のような要求が来ます。

  • 「〇月〇日に行ったシステム変更について、承認記録とテスト結果の報告書を見せてください」
  • 「先月退職された〇〇さんのアカウントが、退職日にきちんと停止されている証跡をください」
  • 「特権アカウント(管理者権限)の一覧と、その利用ログを見せてください」

これらの要求に対して、保管しておいた証跡(エビデンス)を迅速に提出し、システムの仕様や運用ルールについて、監査人に直接説明を行います。

うわー、なんだか尋問みたいで緊張しそうですね…。
質問者
質問者

マサトシ
マサトシ
最初は誰でも緊張しますよ(笑)。でも、これは「粗探し」をされているわけではありません。監査人は「会社のルール通りに、ちゃんと運用できていますね」ということを客観的に確認したいだけ。だからこそ、日頃からルールを整備し、証跡をきちんと残しておくことが何より大切なんです。

SIer/SESからIT統制担当の社内SEへ転職する価値


ここまで読んで、「なんだか地味で大変そうな仕事だな…」と感じた方もいるかもしれません。しかし、IT統制の経験は、あなたのキャリアにとって非常に大きな価値をもたらします。

マサトシ
マサトシ
実は、情報システム部門の社内SEでも「開発は得意だけど、IT統制はちょっと苦手…」という人は少なくないんです。でも、IT統制はどんな会社でも、特に上場企業では絶対に必要とされる再現性の高いスキル。これをしっかり身につけておくと、他のエンジニアとの明確な差別化になって、自分の市場価値を高める武器になりますよ。

具体的には、以下のような価値があります。

  • 事業の根幹に関われるやりがい: 会社の公式なルールを作り、経営の安定に直接貢献
  • 上流工程のスキルの習得: 業務部門や経営層、監査法人との折衝を通じた調整力や説明能力の向上
  • 開発・運用の知見の活用: SIer/SESの経験を活かした、実効性のあるルール作り
  • ワークライフバランスの実現: 年間計画に沿った計画的な業務推進による、働きやすさ

まとめ:IT統制は企業の信頼を守る、誇りある仕事

今回は、社内SEのIT統制業務について詳しく解説しました。

  • IT統制は、企業の信頼性を担保し、安定した経営を支える「守りの要」
  • 社内SEは主に「IT全般統制(ITGC)」の主担当として、開発・運用・アクセス管理などのルール作りと運用を担当
  • 年に一度の監査対応では、ルール通りに運用されている証跡を示すことが最重要
  • IT統制のスキルは専門性が高く、市場価値の高いキャリア形成に直結

IT統制は、一見地味に思えるかもしれませんが、会社の根幹を支えているという実感と、様々な関係者と連携しながら課題を解決していくプロセスに、大きなやりがいと面白さがある仕事です。

社内SEへの転職やキャリアアップを考え始めたあなたへ

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そんなあなたのために、転職の成功確率をグッと上げるための記事を2つご用意しました。ご自身の状況に合わせて、ぜひご覧ください。

用語解説

1. J-SOX法
日本の金融商品取引法における内部統制報告制度の通称。上場企業は、財務報告の信頼性を確保するための社内体制(内部統制)が有効に機能していることを、経営者自らが評価し、外部の監査を受けることが義務付けられている。
2. IT全般統制(ITGC)
IT General Controlsの略。個別の業務処理ではなく、情報システム全体を対象とした統制活動のこと。システムの開発・保守、運用管理、安全管理(アクセス管理など)、外部委託管理などが含まれる。
3. IT業務処理統制(ITAC)
IT Application Controlsの略。販売管理や会計処理など、個別の業務プロセスに組み込まれたITシステムに関する統制活動のこと。入力情報の正確性担保や、エラーデータの修正・再処理などが含まれる。
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マサトシ

新卒で大手SIerに就職|その後、外資系企業や金融機関等、複数企業で社内SEとして計15年以上の経験|アプリ、インフラ、PM、IT戦略策定等幅広い業務を担当|情シスの採用責任者としてキャリア採用の面接経験も多数

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