同じPMなのに、役割が全然違う気がするけど、どうしてなんだろう?
社内SEとしてキャリアを積む中で、プロジェクトを率いるプロジェクトマネージャー(以降、PMと表記)という職種に、そんな疑問をお持ちではないでしょうか。
一言でPMと言っても、実はビジネスモデルの違いによって大きく2種類に分けられます。この記事では、まずその定義から解説します。
この記事は、社内SEの経験を活かして、事業会社PM(発注側)を目指すあなたのための「PM解体新書」です。
ITベンダーPM(受託側)との決定的な違いから、事業会社で求められる具体的な仕事内容、必須スキル、そしてその先のキャリアパスまでを網羅的に解説します。
結論からお伝えします。事業会社PM(発注側)は、単なるプロジェクトの管理者ではなく、自社の事業価値を創出する「戦略的パートナー」です。この本質を理解することが、あなたのキャリアを飛躍させる第一歩です。
この記事を読めば、こんな疑問が解決します!
- プロジェクトマネージャー(PM)の基本的な役割と責任
- 事業会社PM(発注側)とITベンダーPM(受託側)の決定的な違い
- 事業会社PM(発注側)の具体的な仕事内容と求められるスキル
- PM経験を活かした、その先のキャリアパス
なお、この記事は社内SEのキャリアパス全体を解説した記事の一部です。PM以外のキャリアパスも含めた全体像にご興味があれば、以下の記事も参考になります。
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プロジェクトマネージャー(PM)とは?

まず、PMという職種の基本的な役割と、混同されがちな関連職との違いを解説します。
2種類のPM:事業会社(発注側)とITベンダー(受託側)の定義
PMの役割を理解する上で、まずIT関連のプロジェクトには立場が異なる2種類のPMが存在することを押さえておきましょう。
- 事業会社PM(発注側)
自社の事業成長や業務効率化を目的として、社内のITプロジェクトを企画・推進するPM - ITベンダーPM(受託側)
顧客企業からシステム開発を受注し、そのプロジェクトを契約通りに完遂させる責任を負うPM
※ITベンダーとは、SIer、コンサルティングファーム、SES企業など、顧客企業にITサービスを提供する企業の総称です。
この記事では、主に社内SEのキャリアパスとなる前者、事業会社PM(発注側)について深掘りしていきます。
PM・PL・PMOの役割早見表
プロジェクトには、PMの他にもよく似た役割名が登場します。それぞれの違いを明確にしておきましょう。
| 役職 | 正式名称 | 役割のポイント |
|---|---|---|
| PM | プロジェクトマネージャー | プロジェクト全体の統合管理責任者 |
| PL | プロジェクトリーダー | 現場に近い立場でチームのタスク実行を担うリーダー |
| PMO | プロジェクトマネジメントオフィス | PMを支える組織的な支援者 |
PMの責任範囲:国際標準と事業会社PMに求められる役割
PMの役割は、国際標準であるPMBOK1(プロジェクトマネジメント知識体系ガイド)において、プロジェクトのQCD2(品質・コスト・納期)を管理し、目標を達成することが中核的な責任と定義されています。
しかし、特に事業会社のPMにおいては、単に計画通りに進めるだけでは不十分です。なぜなら、プロジェクトの目的はあくまで自社の事業価値を向上させることにあり、その価値を最大化する舵取りこそが最も重要な役割だからです。
事業会社PM(発注側)とITベンダーPM(受託側)の決定的な違いは何か

同じPMという肩書でも、事業会社とITベンダーでは目的も成功の基準も全く異なります。この違いを3つの観点から理解することで、ご自身のキャリアの方向性をより明確に描けるはずです。
違い①「目的」― 事業の当事者か、プロジェクトの請負人か
まず、両者の最も根本的な違いである「目的」から見ていきましょう。
事業会社PM(発注側)
自社の事業成長を目的とした「事業の当事者」
自社の経営課題を解決するため、ITを武器に「何に投資すべきか」を考えるのがミッションです。例えば、自社ECサイトの売上向上や、全社的な業務効率化といった経営目標の達成がゴールです。
ITベンダーPM(受託側)
顧客との契約を履行する「プロジェクトの請負人」
顧客から発注されたシステムを、契約通りに完成させて利益を上げることがミッションです。顧客から提示された要件に基づき、プロジェクトを完遂させる実行責任を負います。
違い②「成功の定義」― ビジネス成果か、QCD遵守か
目的が異なるため、プロジェクトの「成功」の定義も全く変わってきます。
事業会社PM(発注側)
「ビジネスの成功」がゴール
成功は、導入したシステムによる「具体的なKPIの改善」で測られます。「売上が10%向上した」「業務コストが20%削減できた」といった、事業への貢献が最終的な評価基準です。
ITベンダーPM(受託側)
「プロジェクトの完遂」がゴール
成功は、契約で定められたQCDの遵守です。「納期通り、予算内で、要求された品質のものを納品できたか」が主な成功の基準となります。
違い③「責任範囲」― 導入後も伴走か、納品までか
最後に、PMが責任を負う「範囲」の違いを確認しましょう。
事業会社PM(発注側)
「導入後」まで責任を持つ伴走者
システムの導入効果を測定し、利用部門への定着化を支援するなど、持続的な価値創出まで見届ける責任があります。
ITベンダーPM(受託側)
「納品」まで責任を持つ実行者
システムを納品すれば契約上の責任は一旦完了です。納品後は保守契約に移行するケースもありますが、PMとしての責任は一区切りとなります。
このように、事業会社PMは「事業成長のドライバー」、ITベンダーPMは「契約遂行のプロフェッショナル」として、それぞれ異なる使命を担っています。ご自身のキャリア志向に照らして、どちらの立場が自分に合うのかを見極めることが重要です。
事業会社PMの具体的な仕事内容|戦略立案から人材育成まで担う4つの役割

事業価値の創出をミッションとする事業会社PMが、日々どのような業務を行っているのかを具体的に見ていきましょう。
仕事内容① 経営課題とIT戦略の連携
事業会社PMの最初の重要な仕事は、会社の経営課題とIT戦略を結びつけることです。なぜなら、ITプロジェクトを単なるシステム導入ではなく、経営課題そのものを解決するための「投資」として位置づける必要があるからです。具体的な業務の流れを見てみましょう。
具体例
例えば、営業部門から「もっと効率的に顧客管理がしたい」という声が上がったとします。このとき事業会社PMは、まず「なぜ効率化が必要なのか」「最終的に売上を何%上げたいのか」といった、課題の根源とビジネス目標を深くヒアリングします。その上で、IT投資が企業価値向上にどれだけ貢献するかを経営層に説明し、プロジェクトの承認を得るのです。
このように、ビジネスの根幹からプロジェクトを企画立案することが、事業会社PMの第一の仕事です。
仕事内容② ベンダー選定とマネジメント
次に事業会社PMは、プロジェクトを共に推進する外部パートナーを管理します。自社だけですべてを開発するケースは稀であり、外部の専門知識を持つITベンダーとの協業がプロジェクト成功の鍵を握るからです。
具体例
システム開発のパートナーを選定する際、事業会社PMはまずRFP3(提案依頼書)という、プロジェクトの目的や要件をまとめた文書を作成します。そして、複数のITベンダーから提案を受け、機能や費用だけでなく、「自社のビジネスを本当に理解してくれているか」といった多角的な視点で、最適なパートナーを選定します。
特定のベンダーの言いなりにならず、常に対等なパートナーとして厳しい交渉も行う、重要な役割です。
仕事内容③ システムライフサイクル全体への関与
事業会社PMは、システムの企画から廃棄まで、その一生に責任を持つことが特徴です。システムは作って終わりではなく、ビジネスの変化に合わせて成長させ、最終的に役目を終えるまで価値を最大化し続ける必要があるためです。
具体例
プロジェクトの成功を左右する「要件定義」のフェーズは、事業会社PMが特に重視する工程です。ここで業務部門の要求を正確に汲み取らないと、後工程で「こんなはずじゃなかった」という致命的な手戻りが発生するからです。PMは利用者と密に連携して認識の齟齬を防ぎ、導入後も継続的な改善活動を推進します。
このように、短期的な開発だけでなく、長期的な視点でシステム全体を管理することが求められます。
仕事内容④ 社内IT人材の育成と活用
見過ごされがちですが、社内のIT人材を育成することも事業会社PMの重要なミッションです。DXが進む現代において、ITベンダーに依存しきりの状態は大きな経営リスクであり、社内でITプロジェクトを推進できる人材を育てることが企業の競争力に直結するからです。
具体例
プロジェクトを、OJT4(On-the-Job Training、実務を通じた研修)の機会として戦略的に活用するのも事業会社PMの腕の見せ所です。例えば、若手の社内SEをプロジェクトのキーパーソンに抜擢し、ベンダーとの交渉や部門間の調整といった難易度の高い業務を意図的に経験させます。
このように、プロジェクトの成功と同時に、組織全体のIT力を底上げすることも、PMに期待される大切な役割なのです。
事業会社PMに必須のスキルセットとキャリア展望

魅力的なキャリアである事業会社PMになるために必要なスキルと、その経験を通じてキャリアが広がる未来について解説します。
必須スキル① 経営視点での提案力
事業会社PMとして成功するには、経営視点での提案力が不可欠です。会社の資金や人材といった有限なリソースを預かる「投資」の意思決定に関わるため、技術的な正しさだけでは不十分だからです。
具体例
複数のIT案件が候補に挙がった際、事業会社PMは単に技術的に面白いものではなく、会社全体の利益を最も最大化するプロジェクトはどれかを見極める必要があります。そして、「なぜ今、このIT投資が必要なのか」を、経営層が納得できるよう論理的に説明する能力が求められます。
このように、常にビジネス全体への貢献を意識した提案力が、事業会社PMの価値を決めます。
必須スキル② 高度な対人・調整スキル
次に、利害関係者をまとめ、プロジェクトを推進する高度な対人・調整スキルが求められます。事業会社のプロジェクトは、営業、マーケティング、経理など、立場の異なる多くの社内部門を巻き込むため、意見の対立や衝突が日常的に発生するからです。
具体例
新システムの導入において、営業部門は「多機能で便利なものを」と要求し、開発部門は「シンプルな機能で安定稼働を」と主張することがあります。事業会社PMは両者の間で板挟みになりながらも、意見を尊重し、プロジェクト本来の目的に沿った最適な着地点を見つけ出すといった、粘り強い調整を行う必要があります。
技術力以上に、こうした人間系のスキルがプロジェクトの成否を分ける場面は少なくありません。
必須スキル③ 投資対効果を語る財務知識
最後に、IT投資の妥当性を数字で証明するための財務知識は必須です。経営層が最終的に判断を下すのは、「その投資がいくらの利益を生むのか」という費用対効果(ROI)だからです。
具体例
「このシステムに3,000万円投資すれば、年間1,000万円のコスト削減が見込めるため、3年で投資を回収できます」といった説明を、事業会社PMは具体的な財務データに基づいて行う能力が求められます。減価償却などの会計知識も、説得力を高める上で強力な武器になります。
このように、ITの価値を「経営の言語」である会計の言葉で語る能力が、事業会社PMには不可欠です。
SaaS・AI時代に求められる新たなPMの役割
近年、PMのあり方も変化しています。
かつて主流だった自社サーバーでシステムを構築する(オンプレミス)時代は、大規模なウォーターフォール開発が中心でした。
しかし、現在は様々なSaaS5(Software as a Service、クラウド提供ソフトウェア)を組み合わせ、アジャイル6(俊敏な開発手法)に価値を届けるプロジェクトが増えています。
PMはもはや「計画通りに進める」だけでなく、複数のSaaSをどう連携させ、業務価値を最大化するかの「目利き」としての役割が重要になっているのです。
また、AI導入プロジェクトのように、成果が予測しづらい不確実性の高いテーマを管理する能力も求められます。
PM経験の先にあるキャリアパス
事業会社PMの経験は、ゴールではなく、さらに多様なキャリアへの道が広がります。
予算、戦略、部門横断の調整といった経験は、会社経営の縮図そのものであり、将来のビジネスリーダーへの道を開きます。
- 経営幹部(CIO/CTO)
IT戦略を担う最高責任者 - 事業企画・DX推進
よりビジネスサイドに近い戦略立案を担うポジション - ITコンサルタント
社内での経験を活かし、社外の企業の課題を解決する専門家
まとめ:事業会社PMは、事業を創る戦略的パートナーである
最後に、本記事で解説してきた事業会社PMの役割と魅力について、要点を改めて整理します。
ITベンダーPM(受託側)が「決められた仕様書通りに、納期と予算内でシステムを完成させること(契約の履行)」をミッションとするのに対し、事業会社PM(発注側)は「そのシステムが、会社の売上や利益に本当に貢献しているか(投資の成功)」まで責任を持つ、戦略的なパートナーです。
その責任は重いですが、自らの仕事が会社の成功に直結しているという強い「事業貢献実感」は、何物にも代えがたいやりがいをもたらします。
もし、あなたが「決められたものを作る」だけではなく、「何を作るべきか」から考え、ビジネスの成功に直接貢献したいと考えるなら、事業会社PMは非常に魅力的なキャリアパスです。
この記事を読んで事業会社PMへの一歩を踏み出してみたいと感じたら、まずは転職エージェントに相談し、具体的なキャリアプランを立ててみることをお勧めします。
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FAQ:「プロジェクトマネージャー」についてよくある質問
事業会社PMを目指す上で、多くの方が抱く疑問にお答えします。
Q1. SIerでのPM経験は、事業会社への転職で活かせますか?
はい、大いに活かせます。特に、ベンダーコントロールの経験や、大規模プロジェクトを管理した経験は高く評価されるからです。ただし、面接では「なぜ事業会社なのか」を明確に伝えることが重要になります。SIerでの経験を通じて、より事業の根幹に近い立場でプロジェクトを成功に導きたい、といった前向きな志望動機を語れると良いでしょう。
Q2. エンジニア経験など、技術的なバックグラウンドは必須ですか?
必須ではありませんが、ある方が断然有利です。技術的な知見は、開発チームとの円滑なコミュニケーションや、ベンダーからの提案の妥当性を判断する上で大きな助けとなるからです。もし技術経験が浅い場合は、資格取得などを通じて知識を補う努力をしていることをアピールすると良いでしょう。この姿勢がポテンシャルとして評価されることもあります。
Q3. 未経験から事業会社のPMになることは可能ですか?
はい、可能です。いきなりPMとして転職するのは難しいかもしれませんが、社内SEとしてプロジェクトに参画し、経験を積むのが一般的だからです。まずはプロジェクトメンバーとしてPMの仕事を学び、次にプロジェクトリーダー(PL)として小規模なチームを率いる。このように、段階的にステップアップしていくのが、未経験からPMを目指す王道のキャリアパスです。
Q4. 事業会社PMの一番のやりがいは何ですか?
自分の仕事が、会社の売上や同僚の働き方に直接的な良い影響を与えるのを、日々目の当たりにできる点です。SIer時代には見えにくかった、システムの「その先」にあるビジネスの成果にまで関われるため、この「事業貢献実感」こそが、最大のやりがいと言えるでしょう。
Q5. PMになるためにおすすめの資格はありますか?
国家資格である「プロジェクトマネージャ試験(PM)」や、国際的な認定資格である「PMP® (Project Management Professional)」が有名です。これらの資格は、PMの知識を体系的に学ぶ上で非常に有効です。特にPMP®は国際的に認知されているため、外資系企業への転職も視野に入れるなら、取得しておくと有利に働くことがあります。
用語解説
- 1. PMBOK (Project Management Body of Knowledge)
- プロジェクトマネジメント知識体系ガイド。プロジェクトマネジメントの知識を体系的にまとめたもので、国際的な標準として広く認知されている
- 2. QCD (Quality, Cost, Delivery)
- 品質・コスト・納期。プロジェクト管理において重要視される3つの要素
- 3. RFP (Request for Proposal)
- 提案依頼書。システム導入にあたり、発注側の企業がITベンダーに対して、具体的な要件や調達条件を提示し、提案を依頼するための文書
- 4. OJT (On-the-Job Training)
- 実務を通じた研修。実際の仕事を通じて、業務に必要な知識やスキルを身につける育成手法のこと
- 5. SaaS (Software as a Service)
- クラウド提供ソフトウェア。従来はPCにインストールして利用していたソフトウェアを、インターネット経由でサービスとして利用する形態のこと
- 6. アジャイル (Agile)
- 俊敏な開発手法。システム開発において、短い期間で「計画→設計→実装→テスト」のサイクルを繰り返し、変化に柔軟に対応していく開発手法のこと