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社内SEの仕事

【元情シス部長が語る】社内SEの管理職になるということ|仕事内容と転職術

「社内SEの管理職って、具体的に何をするんだろう…?」
「SIerでPMは経験したけど、事業会社の管理職とは違うのかな?技術から離れるのが不安…」
「今の会社でマネージャーを目指せる?転職したほうが早い?年収はどれくらい上がるんだろう…」
質問者
質問者

SIerやSESでリーダーやPM(プロジェクトマネージャー)を経験したあなたなら、次のキャリアとして「社内SEの管理職」という選択肢を意識したことがあるのではないでしょうか。

結論からお伝えします。社内SEの管理職とは、技術力を武器に、会社全体の「事業」と「組織」を動かす戦略的なポジションです。単なるシステム管理者やプロジェクトの責任者ではなく、会社の未来を創る「指揮官」として、非常にダイナミックでやりがいのある役割を担います。

この記事では、SIerから事業会社の情報システム部門へ転職し、部長職まで経験した私の視点から、社内SE管理職のリアルな仕事内容、SIerのPMとの決定的な違い、そして後悔しないキャリアを築くための戦略まで、具体的に解説していきます。

なお、この記事は「社内SEの管理職」というキャリアに特化した内容です。管理職以外の専門領域(IT統制・IT企画など)の全体像をまず把握したい方は、こちらの包括記事がおすすめです。

この記事を書いた人(マサトシ)

マサトシ

マサトシ(詳細プロフィールはこちら

SIerでの開発・保守経験を経て、金融、外資系など計4社の事業会社で社内SEとして約20年にわたりキャリアを築いてきました。インフラ、アプリ、ヘルプデスクから部門長まで幅広く経験し、現在は採用業務にも携わっています。社内SEの本音や転職・キャリアアップのポイントなど、実務者だからこそわかる現場情報をお届けします。

この記事を読めば、こんなことが分かります!

  • 社内SE管理職の具体的な仕事内容と、SIerのPMとの決定的な違い
  • 評価の難しさや板挟みなど、管理職ならではの「大変さ」のリアル
  • 技術力以上に求められる3つの重要なスキル
  • 気になる年収水準、課長・部長・その先のキャリアパスと転職戦略

社内SE管理職の役割とは?「一般管理職」と「情シス固有」の役割


社内SE管理職の仕事を理解するために、まずはその役割を「①どの部署にも共通する管理職の役割」と「②情シス部門だからこその固有の役割」に分けて見ていきましょう。

①【前提】全ての管理職に共通する役割(ピープルマネジメント)

まず大前提として、情シスの管理職も「管理職」です。会社のどの部署であっても、管理職には共通して「人やチームを管理する」という基本的な役割があります。これをピープルマネジメント1と呼びます。

  • 部下の育成と評価:部下一人ひとりの目標(MBO2)を設定し、定期的な1on1面談で進捗を確認したり、キャリアの相談に乗ったりします。そして、その頑張りを公正に評価するのも大事な仕事です。
  • チームビルディング:チーム全体が同じ目標に向かって進めるように、一体感のある雰囲気を作ります。
  • 労務管理:メンバーが無理なく働けているか、労働時間や心身の健康にも気を配ります。
マサトシ
マサトシ
どの部署の管理職であれ、部下と向き合い、チームの成果に責任を持つ「ピープルマネジメント」が全ての基本です。ここから先は、この土台の上に積み上がる情シス管理職ならではの固有の役割について、詳しく解説していきますね。

②【本題】情シス管理職に固有の4大ミッション

ここからがこの記事の本題です。情シス管理職の価値は、ピープルマネジメントという土台の上に、これからお話しする4つの専門的なミッションを遂行できるかどうかにかかっています。

ミッション1:IT戦略の策定者(経営と技術の翻訳家)

会社の「社長や役員が考えていること(経営目標)」と「ITで実現できること(技術)」を結びつけ、会社のIT全体の進むべき道を示す役割です。

  • 経営目標をITの言葉に翻訳し、「今後3〜5年で、我が社のITはこうあるべきだ」という計画(IT中期経営計画3)を立てます。
  • 「DXを進めよう」「AIを導入しよう」といった大きなテーマについて、それが本当に会社の利益に繋がるのか、費用対効果を冷静に分析し、経営層に提案します。

ミッション2:IT投資の責任者(事業貢献を数字で示す)

ITには当然お金がかかります。その予算を会社から獲得し、責任を持って管理する役割です。

  • 「来年度はこれだけのシステム投資が必要です」というIT予算案を作成し、経営会議などで承認を得ます。
  • その予算がどのように使われているかを管理(CAPEX/OPEX4管理)します。
  • 「このIT投資は、単なる経費(コスト)ではなく、会社の売上アップや業務効率化にこれだけ貢献しています」と、数字で証明する説明責任も負います。

ミッション3:ITガバナンスの守護者(全社のリスクを管理する)

会社全体のIT利用が、安全かつルールに則って行われるように「守りの仕組み」を構築・維持する役割です。

  • 情報セキュリティに関する全社的なルール(ポリシー)や、IT関連の規程を整備します。
  • 社員が会社の許可なく勝手に便利なクラウドサービスなどを使う「シャドーIT」や、特定の社員しか分からない「業務の属人化」といった、情シス特有のリスクを防ぐための対策を講じます。

ミッション4:ベンダーマネジメントの司令塔(外部のプロを動かす)

社内のシステム開発や運用は、外部の専門会社(ベンダー)に協力してもらうことが多々あります。これらのベンダーと良好な関係を築き、会社の利益を最大化するようコントロールするのも重要なミッションです。

  • SIerのPMが「特定のプロジェクトのベンダー」を管理するのに対し、情シス管理職は「全社のITに関わる複数ベンダー」との戦略的な関係をマネジメントします。
  • どのベンダーに仕事を任せるかを選定し、価格や契約内容を交渉します。
マサトシ
マサトシ
管理職として決裁権を持つと、さまざまなベンダーが最新のソリューションを提案しに営業に来ます。彼らからの情報収集は市場のトレンドを把握する上で非常に有益ですが、全てを鵜呑みにせず、自社の戦略に本当に合致するかを見極め、時には厳しい交渉も行う。こうしたベンダーとの高度な駆け引きも、管理職の重要な役割ですね。

SIerのPM経験者が戸惑う「3つの壁」と求められる新スキル


SIerでPMを経験した方が社内SEの管理職に転職すると、その役割の違いから、いくつかの「壁」にぶつかることがあります。この壁を乗り越えられるかどうかが、キャリアチェンジ成功の分かれ道です。

壁1:評価の壁(成果が「見えない」ことへの戸惑い)

SIerのPMは、プロジェクトのQCD(品質・コスト・納期)を守れたかどうかで、成果が明確に評価されます。
しかし、情シス部門、特にシステムの運用保守やセキュリティを担うチームの成果は「何も問題が起きないこと」です。

マサトシ
マサトシ
本当にこれ、難しいんですよ。営業部門なら売上目標、開発プロジェクトなら納期という分かりやすい指標がありますが、運用保守やセキュリティ強化の成果は「問題が起きなかったこと」なので、頑張りが評価されにくい構造なんです。むしろ、何か障害が起きた時だけ目立ってしまう、という側面があります。

▶︎ 求められる新スキル:価値の可視化能力
この「見えない成果」を、いかに経営層に伝わるように「見える化」するかが腕の見せ所です。「安定稼働によって、機会損失をこれだけ防いでいます」「このセキュリティ投資で、これだけの経営リスクを低減しています」と、ビジネスの言葉で価値を説明する能力が求められます。

壁2:調整の壁(終わりなきステークホルダーマネジメント)

SIerのPMが調整する相手は、主に「顧客」と「自社の開発チーム」です。
一方で、社内SEの管理職が調整する相手(ステークホルダー5)は、「経営層、人事、経理、営業など全部門、全社員、そして複数の外部ベンダー」と、非常に多岐にわたります。

▶︎ 求められる新スキル:高度な交渉力・政治力
各部門の利害が対立することも日常茶飯事です。「A部署はこうしたい、でもB部署は反対」「現場はこれが欲しい、でも経営層は予算を渋る」といった状況で、会社全体にとっての最適解を見つけ出し、関係者を粘り強く説得して合意形成を主導する、高度な調整能力が必要になります。

壁3:責任の壁(事業全体を背負う重圧)

SIerのPMが負うのは「プロジェクトに対する責任」です。
しかし、社内SEの管理職が負うのは「会社のITインフラ全体と、それに依存する事業継続に対する責任」です。

▶︎ 求められる新スキル:全社的リスク管理能力
一つのシステム障害が、全社の業務停止や信用の失墜に繋がる可能性があります。そのため、目の前のプロジェクトだけでなく、常に会社全体を俯瞰し、「ここにこんなリスクが潜んでいるな」とプロアクティブ(先回り)に対策を講じる、広い視野でのリスク管理能力が求められます。

社内SE管理職のキャリアパスと転職戦略


では、どうすれば社内SEの管理職になれるのでしょうか。ここでは具体的なキャリアの道筋と、転職を成功させるためのポイントを解説します。キャリアプランを明確に描くことが、目標達成への近道です。

キャリアパスの全体像(課長、部長、そしてCIOへ)

社内SEのキャリアは、ある段階で「技術を極める専門家(スペシャリスト)」の道と、「組織を動かす管理職(マネジメント)」の道に分かれます。後者を選んだ場合の一般的なキャリアパスと年収水準のイメージは以下の通りです。

  • 課長クラス(プレイングマネージャー):チームのマネジメントをしつつ、自身も現場の重要案件を担当することが多い。年収水準は、SIerの同年代より高い傾向が見られます。
  • 部長クラス(ピープルマネージャー):現場の実務から離れ、部門全体の戦略策定、予算管理、組織開発に専念する。年収も大きく上がり、大台を狙えるポジションです。
  • 役員(CIO):CIO(最高情報責任者)6として、経営陣の一員となり、会社全体のIT戦略全体の最終責任を負います。

転職で後悔しないための注意点【最重要】

もしあなたが転職で管理職を目指すなら、必ず心に留めておいてほしいことがあります。それは「いきなり管理職として採用されることのリスク」です。

マサトシ
マサトシ
これは私の苦い体験談ですが、管理職として転職した場合、「入社したばかりだから」という言い訳は一切通用しません。社内の人間関係や複雑なシステム構成を全く把握できていないうちから、重要な意思決定を迫られ、その責任を負わされます。私も入社1週間で、前任者から引き継いだプロジェクトの遅延について、事業部長から「どうしてくれるんだ!」とリカバリープランを厳しく問い詰められた経験があります…。

特に注意したいのが「名ばかり管理職」や「ひとり情シス管理職」の求人です。部下がいなかったり、予算の裁量権が全くなかったりするケースもあるため、求人票や面接でその実態をしっかり見極める必要があります。

面接でアピールすべき経験と、必ず確認すべき質問

管理職としての転職を成功させるには、面接での「アピール」と「逆質問」が鍵を握ります。

管理職転職 面接のポイント

✅ アピールすべきこと

  • SIerでのPM経験を、単なる「プロジェクトを完遂した」話で終わらせない。
  • 「そのプロジェクトを通じて、顧客のどんなビジネス課題を解決し、どのような利益に貢献したか」という、ビジネス貢献の視点で語ることが重要。

✅ 必ず確認すべき質問例

  • 「配属される部門の組織図と、レポートライン(誰に報告するのか)を教えてください」
  • 「管理職として、どの程度の予算の裁量権を持てますか?」
  • 「前任の管理職の方は、どのような理由で退職されたのでしょうか?」
  • 「入社後、最初の3ヶ月〜半年でどのような成果を期待されていますか?」

まとめ:社内SE管理職は、会社の未来を創る「指揮官」


今回は、社内SEの管理職について、そのリアルな仕事内容からキャリア戦略までを解説しました。

最後に、この記事のポイントをまとめます。

  • 社内SE管理職は「一般管理職」の役割に加え、「IT戦略」「予算」「ガバナンス」「ベンダー管理」という固有のミッションを担います。
  • SIerのPM経験者が戸惑うのは、成果の「評価」、調整相手の多さ(調整)、責任範囲の広さ(責任)という「3つの壁」です。
  • 技術力以上に、ビジネス貢献を語る力や、多様な関係者を巻き込むソフトスキルが求められます。
  • 転職で管理職を目指す際は、求人の役割や裁量権を慎重に見極め、入社直後の困難を覚悟しておくことが重要です。

社内SE管理職は、技術的なバックグラウンドを活かしながら、経営や組織マネジメントという新たな領域に挑戦できる、非常にエキサイティングなキャリアです。

大変なことも多いですが、自分の手で組織を動かし、会社の未来を創っていく。そんな「指揮官」としての醍醐味は、何物にも代えがたいものがあります。

社内SEへの転職やキャリアアップを考え始めたあなたへ

社内SEというキャリアに本気で興味が湧いたら、次はいよいよ具体的な転職活動の準備です。「何から始めればいいの?」「自分に合う転職エージェントは?」と迷ってしまいますよね。

そんなあなたのために、転職の成功確率をグッと上げるための記事を2つご用意しました。ご自身の状況に合わせて、ぜひご覧ください。

FAQ:社内SEの管理職についてよくある質問

Q1. 30代でも管理職になれますか?
A1. はい、十分可能です。特にベンチャー企業や成長中の企業では、年齢に関わらず実力や実績で抜擢されるケースが多くあります。大手企業でも、30代後半で課長職(チームリーダーやマネージャー)に就くことは珍しくありません。

Q2. 年収はどれくらいになりますか?
A2. 企業の規模や業界によって大きく異なりますが、一般的に課長クラスでSIerの同年代より高い水準になることが多く、部長クラスになると年収の大台を狙えることも珍しくありません。外資系企業や金融業界などでは、さらに高い水準が期待できます。

Q3. 技術の最新情報を追い続ける必要はありますか?
A3. 自分でコードを書くことはなくなりますが、技術の動向を全く知らなくて良いわけではありません。新しい技術がビジネスにどう貢献できるかを判断したり、ベンダーからの提案を評価したりするために、大局的な視点で最新トレンドを学び続ける姿勢は不可欠です。

Q4. 女性でも管理職を目指せますか?
A4. もちろんです。IT業界全体でダイバーシティが推進されており、性別に関係なく管理職として活躍している方は年々増えています。産休・育休などの制度が整っている企業も多く、ライフイベントとキャリアを両立しやすい環境が整ってきています。

Q5. 管理職に向いていない人の特徴はありますか?
A5. 一概には言えませんが、「人に興味がない」「責任を負うのが苦手」「人と話すより、一人で黙々と作業するのが好き」といった傾向が強い方は、管理職よりも技術を極めるスペシャリストの道の方が幸せになれるかもしれません。

この記事で使われている専門用語の解説

1. ピープルマネジメント
部下の育成、評価、動機付けなど、「人」に焦点を当てた管理手法のこと。チームのパフォーマンスを最大化することを目的とする。
2. MBO(目標管理制度)
Management by Objectivesの略。個人またはチームごとに目標を設定し、その達成度合いで評価を決める人事評価制度の一つ。
3. IT中期経営計画
会社の経営計画に基づき、今後3〜5年間のIT分野における目標、投資計画、実行スケジュールなどを定めたもの。
4. CAPEX/OPEX
CAPEXは「設備投資」、OPEXは「事業運営費」のこと。IT予算において、サーバー購入などの資産計上される費用(CAPEX)と、人件費やクラウド利用料などの経費(OPEX)を区別して管理する。
5. ステークホルダー
企業の活動に影響を受ける利害関係者のこと。経営層、従業員、顧客、取引先(ベンダー)、株主など、非常に広範な人々を指す。
6. CIO(最高情報責任者)
Chief Information Officerの略。経営陣の一員として、会社全体のIT戦略全体の最終責任を負います。ITを活用して経営課題を解決することがミッション。
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マサトシ

外資系企業や金融機関等、複数企業で社内SEとして20年以上の経験|アプリ、インフラ、PM、IT戦略策定等幅広い業務を担当|情シスの採用責任者としてキャリア採用の面接経験も多数

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