「社内SEに、基本情報技術者試験は必要ない」――。
そんな声を耳にして、資格を取るべきか迷っていませんか?
SIerとは異なり、社内SEの業務は多岐にわたるため、「資格よりも実務経験が重要」という意見があるのも事実です。
この記事では、現役で20年にわたり社内SEとして働き、採用にも関わる筆者が、なぜ基本情報技術者試験(以下、基本情報)が「不要」と言われるのかを解説します。
その上で、どのような方にとって取得を検討する価値があるのか、客観的な判断材料を提供します。
この記事を読めば、あなたのキャリアステージにおいて基本情報が本当に必要か、そして取得するならどう活かせばいいのか、考えるヒントが見つかります。
先にスタンスを明確にしておくと、全ての社内SEに必須の資格ではありません。しかし、IT未経験からの転職やキャリアチェンジなど、特定の状況にある方にとっては、キャリアの選択肢を広げる強力な「パスポート」になり得ます。
この記事を読めば、こんな疑問が解決します!
- 社内SEに基本情報が「不要」と言われる本当の理由
- 取得すると転職で有利になる3つのケース
- ITパスポートや応用情報との違い
- 転職で資格を最大限アピールする方法
- 2025年最新の試験情報と効率的な勉強法
この記事では「基本情報技術者試験」に絞って深掘りしますが、社内SEのキャリア戦略や資格取得の全体像を先に知りたい方は、以下のまとめ記事からご覧いただくのもおすすめです。
関連記事 社内SEの市場価値を上げる資格とスキル|目的別キャリアアップ戦略
なぜ社内SEに基本情報は「不要」と言われるのか?3つの現実的な理由

まず、スタンダードな資格である基本情報が、なぜ社内SEに「不要」と言われることがあるのでしょうか。
それには、社内SEという職種の特性に基づいた3つの現実的な理由が存在します。
理由1:資格がなくても遂行できる業務が多いため
社内SEの主な仕事は、システム開発そのものよりも、社内調整、ベンダー管理、プロジェクト推進などが中心です。
そのため、プログラミングやネットワークの深い知識がなくても、コミュニケーション能力や業務理解度が高ければ、多くの業務は遂行できてしまいます。
理由2:実務ではより専門的なスキルが求められるため
経験を積んだ社内SEには、基本情報レベルの知識ではなく、より専門的なスキルが求められます。
例えば、インフラ担当ならネットワークスペシャリスト4、セキュリティ担当なら情報処理安全確保支援士などです。
キャリアを重ねるほど、より専門性の高い資格や業務知識の方が、直接的な評価に繋がりやすくなります。
理由3:中途採用では実務経験が最も重視されるため
特に中途採用の現場では、資格の有無よりも「これまでどんな課題を、どう解決してきたか」という実務経験が最も重視されます。
「基本情報を持っています」というアピールだけでは評価されにくく、「資格よりも実務での成果を優先すべき」という意見も一理あるのです。
では、どんな人に有効?基本情報が社内SEのキャリアに役立つ3つのケース

「不要論」がある一方で、基本情報の取得がキャリアを後押しする有効な選択肢となるケースも確実に存在します。
ご自身の状況と照らし合わせてみてください。
ケース1:IT未経験から社内SEを目指す場合
IT業界以外から社内SEへの転職を目指す方にとって、基本情報は学習意欲とITの基礎知識を証明する強力な武器になります。
書類選考の段階で、ITへの適性やポテンシャルを示す客観的な材料となるため、取得優先度は非常に高いと言えるでしょう。
ケース2:SIerから事業会社へ転職し、上流工程に携わりたい場合
開発や保守の経験はあっても、これまで担当してきた領域の知識に偏りがある、と感じているSIerの方にもおすすめです。
基本情報の学習を通じて、経営戦略やITマネジメントの知識を体系的に学ぶことで、事業会社の社内SEに求められる上流工程のスキルセットへスムーズに移行しやすくなります。
ケース3:体系的な知識を学び直し、キャリアの土台を固めたい場合
特定の分野での実務経験は豊富でも、「ITの基礎知識に抜け漏れがある気がする」と感じている若手・中堅の社内SEの方にも価値があります。
断片的な知識を整理し、体系的な知識として学び直すことで、業務の解像度が上がり、より自信を持ってベンダーコントロールや企画立案に臨めるようになるでしょう。
【2025年最新】基本情報技術者試験とは?制度変更でどう変わった?

ここでは、基本情報がどのような試験か、初学者の方にも分かりやすく解説します。
試験の立ち位置や内容、最近の動向を知ることで、取得すべきかどうかの判断材料にしてください。
①ITエンジニアの登竜門となる国家資格
基本情報は、ITエンジニアの登竜門とも言われる、経済産業省が認定する国家試験です。
ITに関する基礎的な知識・技能を網羅的に習得していることを証明するもので、IT業界で働く多くの人がキャリアの第一歩として受験します。
まさに「IT業界の共通言語」を学ぶための、最も標準的な資格と言えるでしょう。
②テクノロジ・マネジメント・ストラテジ系の幅広い知識が問われる
試験は、大きく分けて3つの分野から幅広く出題されます。
プログラミングだけでなく、経営や法律に関する知識も問われるため、技術とビジネスを結びつける社内SEにとって、非常に親和性の高い内容となっています。
- テクノロジ系
コンピュータの仕組み、ネットワーク、セキュリティ、データベースなどの技術的な基礎知識 - マネジメント系
プロジェクトの進め方や、ITサービスの運用管理に関する知識 - ストラテジ系
IT戦略の立案、企業の法務・会計、経営全般に関する知識
③合格率は約50%で推移、難易度は易化傾向【最新データ】
2023年度から後述する新制度へ移行し、合格率が大きく上昇しています。
旧制度では20%〜30%台で推移していましたが、新制度移行後は約45%〜50%と、IT未経験者でも十分合格を狙える水準になりました。
受験者数も年間10万人を超える人気の高さで、IT業界における本資格の重要性がうかがえます。
(出典:情報処理推進機構(IPA)統計資料 令和6年度)
④2023年の制度変更による3つのメリット
2023年4月から制度が大きく変わり、受験者にとってメリットの大きい変更が加えられました。
主な変更点は以下の通りです。
| メリット | 変更内容 |
|---|---|
| 通年受験 | CBT方式1に全面移行し、自分の好きなタイミングで受験可能に |
| 出題内容 | 旧午後の長文問題がなくなり、より実践的な短めの問題(科目B)が中心に |
| 時間短縮 | 合計300分から190分(科目A:90分、科目B:100分)に短縮 |
ITパスポートや応用情報技術者試験との違いは?
IT系の資格は数が多く、どれを受けるべきか迷う方もいるでしょう。
ここでは、基本情報とよく比較される2つの資格との違いを解説します。
ITパスポートとの違い:対象者と技術知識の深さ
ITパスポートは「ITを利用する全ての人」が対象で、ITの基本的なリテラシーを問う試験です。
一方、基本情報は「ITを提供する側(エンジニア)」が対象であり、より技術的な内容が含まれます。
社内SEを目指すのであれば、ITパスポートよりも基本情報の方が、専門性のアピールに繋がります。
応用情報技術者試験との違い:役割とキャリアレベル
応用情報技術者試験は、基本情報の一つ上のレベルに位置付けられる国家資格です。
基本情報が「IT担当者として基礎知識を持つこと」を証明するのに対し、応用情報は「独力でIT戦略の立案や要件定義ができること」を証明します。
実務経験を3年以上積んだ後に、キャリアアップの一環として目指すのが一般的なステップです。
採用担当者の本音!資格を転職活動で最大限に活かすアピール術
資格は、ただ持っているだけでは宝の持ち腐れです。
採用担当者の視点から、転職活動で基本情報を最大限に活かすアピール方法をお伝えします。
履歴書では「取得年月」と「自己PR」欄で意欲を示す
まず、履歴書の資格欄には正式名称「基本情報技術者試験」と取得年月を正確に記載しましょう。
さらに、自己PR欄で「貴社の〇〇という事業に貢献するため、ITの基礎知識を体系的に学習し、資格を取得しました」のように、入社後の活躍イメージと結びつけて学習意欲をアピールできると効果的です。
面接では「資格取得の目的」と「実務での活かし方」を具体的に語る
面接で資格について質問された際は、絶好のアピールチャンスです。
「なぜこの資格を取ろうと思ったのですか?」という質問に対し、「前職では〇〇の業務が中心でしたが、社内SEとして上流工程に携わる上で、IT戦略やマネジメントの知識も不可欠と考え、体系的に学習しました」といったように、自身のキャリアプランと結びつけて語れると、説得力が格段に増します。
IT初学者でも挫折しない!基本情報の効率的な勉強法3ステップ

IT未経験者や初学者の方でも、正しいステップで学習すれば、十分に合格を狙えます。
ここでは、多くの方が実践している効率的な勉強法を3ステップで紹介します。
ステップ1:参考書で全体像を把握する【1周でOK】
- 目的
試験範囲の全体像を掴み、IT知識の「地図」を手に入れること - 方法
最初から全てを完璧に理解しようとせず、「分からない用語があって当然」と割り切り、まずは参考書をざっと1周読み通す - ポイント
この後の過去問演習の際、「この問題は、あの章で見た内容だ」と思い出せるようになり、学習効率が格段に向上する
ステップ2:過去問サイトで科目Aを完璧にする【最低5年分】
- 目的
科目Aで問われる幅広いIT基礎知識を定着させ、安定して合格点を取るための土台を築くこと - 方法
Webの過去問学習サイトを活用し、最低でも直近5年分を3周は繰り返す。間違えた問題は、必ず参考書に戻って周辺知識も復習する - ポイント
目標は「安定して9割正解できる」レベル。ここまで到達すれば、科目Aで落ちる心配はほぼ解消される
ステップ3:サンプル問題で科目Bの解法パターンを掴む
- 目的
科目B特有の、論理的思考力やプログラミング的思考を問う問題形式に慣れること - 方法
参考書で情報セキュリティやアルゴリズムの解法パターンを学習し、IPAが公開しているサンプル問題などで演習を繰り返す - ポイント
初見では戸惑う問題も、繰り返し解いてパターンを掴めば確実に得点源になる。焦らずじっくり取り組むことが大切
まとめ:あなたのキャリアステージに合わせて取得を判断しよう
社内SEに基本情報が「不要」と言われる背景には、実務経験やコミュニケーション能力が重視される職務特性があります。
しかし、本記事で紹介したように、特にIT業界への入門者や未経験者、キャリアチェンジを考える方にとっては、ITの体系的な知識を身につけ、自身の学習意欲を客観的に証明するための、有効な選択肢の一つです。
最終的に取得すべきかどうかは、あなたの現在のスキルレベルや、今後のキャリアプランによって異なります。
この記事が、あなたにとって最適な判断を下すための一助となれば幸いです。
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Q. 合格に必要な勉強時間の目安は?
IT初学者の方であれば約200時間、基礎知識がある方なら50時間程度が一般的な目安とされています。
これは多くの資格予備校などで示される平均的な学習時間です。例えば、1日2時間の勉強を続ければ、3ヶ月強で200時間に到達する計算になります。
まずはご自身の生活スタイルに合わせて、毎日少しずつでも学習時間を確保する習慣をつけることから始めてみてはいかがでしょうか。
Q. 文系・IT未経験でも独学で合格できますか?
はい、独学でも十分に合格は可能です。
近年は質の高い参考書やWeb上の学習サイトが非常に充実しており、独学でも学習環境を整えやすいからです。実際に、市販の教材と過去問サイトを中心に学習を進め、合格している方はたくさんいます。
もし学習の進め方に不安を感じたら、まずは一冊、評価の高い参考書を手に取ってみることをお勧めします。行動することで、具体的な学習計画が見えてきますよ。
Q. 企業から資格手当は期待できますか?
企業によりますが、資格手当や報奨金(一時金)を期待できる可能性は十分にあります。
多くの企業がIT人材のスキルアップを奨励しており、その一環として資格取得支援制度を設けているためです。合格時に数万円の報奨金が出たり、月々の給与に手当が上乗せされたりするケースが考えられます。
転職活動の際には、募集要項の福利厚生欄に「資格取得支援制度あり」といった記載があるかチェックするのも、企業選びの良い視点になるでしょう。
Q. 取得するなら、転職活動の前と後どちらが良いですか?
IT未経験や実務経験が浅い場合は、転職活動の前に取得することを強くおすすめします。
資格があることで、書類選考の段階で学習意欲やポテンシャルを客観的にアピールできるからです。これは、経験の不足を補う有効な材料となります。
一方、すでに関連業務の経験が豊富な方であれば、転職後に会社の支援制度を活用して取得するのも賢い選択です。ご自身の状況に合わせて、最適なタイミングを判断しましょう。
Q. 上位資格である応用情報とどちらを先に受けるべきですか?
ITの実務経験が浅い、あるいは基礎知識に自信がない場合は、まず基本情報から挑戦することをおすすめします。
基本情報は、応用情報を含むより高度なIT資格の土台となる知識を体系的に学べるからです。一見遠回りに見えても、ここで基礎を固めることが、結果的にその後のスムーズなステップアップに繋がります。
焦らず、着実に知識を積み上げていくことが、最終的なキャリアアップへの一番の近道です。
用語解説
- 1. CBT方式
- Computer Based Testingの略。テストセンターに設置されたコンピュータを使用して実施する試験方式のこと
- 2. API
- Application Programming Interfaceの略。ソフトウェアやプログラム、Webサービスの間を繋ぐインターフェースのこと
- 3. SaaS
- Software as a Serviceの略。インターネット経由で提供されるソフトウェアのこと。利用者はPCにインストールすることなく、ブラウザ等で利用できる
- 4. ネットワークスペシャリスト
- ネットワークの専門家であることを証明する国家資格。基本情報や応用情報の上位資格にあたる